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「新日本」書籍レビュー|安宅和人が描く日本再生の未来戦略

こんにちは、皆さん!
今回は、慶應義塾大学の特任教授であり、ヤフーのチーフストラテジーオフィサーを務める安宅和人さんが著した『新日本』について深掘りしていきます。この本は、データに基づいて日本がこれからどのように生き残り、成長していくのかを論じた一冊です。安宅さんの視点から、日本の現状と未来を読み解くことができる貴重な資料であり、日本の未来に対する希望を持たせてくれる内容となっています。

1. 日本が15年間「一人負け」している現実

本書の冒頭で安宅さんは、日本が直面する厳しい現実をデータを用いて鮮明に描写しています。特に、1995年以降、日本のGDP成長が他の先進国と比べて著しく停滞している点に焦点が当てられています。かつては世界をリードしていた日本経済ですが、2000年代に入ってからは成長が鈍化し、ついには2008年頃には中国に追い抜かれてしまいました。

安宅さんは、これを「一人負け」と表現し、他国が成長を続ける中で、日本だけが停滞している現状を指摘しています。例えば、ソニーのウォークマンがアップルのiPodに取って代わられ、自動車業界ではテスラが急成長を遂げるなど、かつての日本の強みであった産業が次々と他国に追い抜かれている現実が示されています。

2. 現代は「データ×AI」が富を生む時代

安宅さんは、現代の世界経済における最も重要な要素として「データ×AI」を挙げています。過去のビジネスモデルでは、製品を大量に生産し、それを売ることで企業は利益を上げていました。しかし、現在ではビッグデータとAIを駆使して新たな価値を生み出すことが企業の成長に不可欠となっています。

この新しいビジネスモデルの中で、マイクロソフトやAmazon、アリババなどのグローバル企業は、データ×AIを活用することで飛躍的な成長を遂げています。これに対して、日本の企業はこの変化に対応できておらず、結果として競争力を失っている状況が続いているのです。

安宅さんは、これを「データ×AI時代」と呼び、この時代に適応できない企業は、いかに優れた製品を作っても生き残ることが難しいと警鐘を鳴らしています。

3. 日本が「データ×AI」を使いこなせない3つの理由

日本が「データ×AI」を使いこなせない理由として、安宅さんは3つの重要なポイントを挙げています。

  1. ビッグデータの収集力の欠如
    日本にはヤフーや楽天といった国内で人気のあるサービスがありますが、GoogleやAmazonと比べると、集められるデータの量が圧倒的に少ないです。データの量が少ないということは、AIの学習や分析においても他国の企業と比べて不利になるということです。
  2. データ処理コストの高さ
    データを処理するためには大量の電力が必要です。しかし、日本の電気代は他国と比べて非常に高いため、データ処理にかかるコストも膨大です。例えば、同じ量のデータを処理するにしても、日本では他国の数倍のコストがかかるため、競争力が大きく削がれてしまうのです。
  3. データを扱う人材の不足
    日本には、データサイエンティストやAIエンジニアといった専門家が圧倒的に不足しています。さらに、そうした専門家が育っても、その数や質において、アメリカや中国、インドといった国々には到底及ばない現状があります。人材が不足しているため、企業がデータを活用しようとしても、その能力が十分に発揮されていないのです。

4. 日本の強みは「第2・第3フェーズ」にある

しかし、安宅さんは日本が持つ強みにも目を向けています。産業革命の歴史を振り返ると、日本は常に新しい技術の波に乗り遅れる傾向がありましたが、その後のフェーズでは強みを発揮してきました。

産業革命は大きく3つのフェーズに分かれます。フェーズ1は新しい技術やエネルギーが出現する時代であり、フェーズ2はそれらの技術が世界中で広く活用される段階です。そしてフェーズ3では、これらの技術が複雑に結びつき、新しいシステムや産業が生まれる時代です。

日本はフェーズ1では遅れを取ることが多いですが、フェーズ2や3では他国を追い上げ、成功を収めることが多かったと安宅さんは述べています。これは、明治維新以降の日本の産業化の歴史や、戦後の高度経済成長期における日本の発展が証明しています。

現在の「データ×AI時代」でも、フェーズ1においては日本は遅れを取っているものの、これからのフェーズ2においては再び強みを発揮する可能性があると安宅さんは考えています。

5. 妄想力は日本の大きな武器

日本がこれからの時代において強みを発揮できるもう一つの要素が「妄想力」です。安宅さんは、日本のアニメや漫画文化が、幼少期から妄想力を育てる最高の教材であると述べています。

例えば、ドラえもんに登場する「ひみつ道具」は、まさに妄想力の結晶です。どこでもドアやほんやくコンニャクなど、現実には存在しないアイデアが、子供たちの創造力を豊かに育ててきました。

このような妄想力は、新しい技術やサービスを創造する上で非常に重要です。未来のフェーズ2では、この妄想力を活かして、日本が新たな価値を生み出すことが期待されます。

6. これから大事になるのは「偉人」

安宅さんがもう一つ強調しているのは、これからの時代において「偉人」と呼ばれる存在が重要になるということです。

「偉人」とは、複数のニッチな領域で尖った強さを持ち、それらをつなげて新しい価値を生み出す人々のことです。これまでの世界では、競争の中で一番になれるような人が大事にされてきましたが、これからはライバルの少ない分野を開拓し、そこに新しい価値を持ち込める人が求められるのです。

安宅さんは、これからの未来を作っていくのは、この「偉人」たちだと述べています。そして、そんな「偉人」たちをサポートし、彼らが活躍できる環境を整えることが日本にとって重要だと強調しています。

7. 中高年層が若者を支援することが未来を切り開く

最後に、安宅さんはこれからの日本の未来を切り開くのは若者たちであり、中高年層が彼らを支援することが非常に重要だと述べています。

歴史を振り返ってみても、世の中に革新をもたらしたのは若者であることが多いです。例えば、ソニーの創業者である森田昭夫や、アップルのスティーブ・ジョブズは共に25歳という若さで大きなイノベーションを起こしました。若者たちが持つ斬新なアイデアとエネルギーが、未来を切り開く原動力となるのです。

中高年層は、これまでの経験や知識を活かして、若者たちの挑戦を支援し、彼らが最大限の能力を発揮できるような環境を整えることが求められています。

8. まとめ

『新日本』は、日本が直面する課題と、それを乗り越えるための具体的な戦略を示してくれる一冊です。安宅和人さんが提示するデータと論理的な分析に基づく視点は、日本の未来を見据える上で非常に参考になります。

日本がこれから世界でどのように輝きを取り戻すのか、その答えがこの本には詰まっています。ぜひ一度手に取って、安宅さんの考えに触れてみてください。そして、未来の日本がどのように進んでいくべきか、一緒に考えていきましょう。